【読書感想】サンブンノイチ:木下半田著~正直者が粘り勝つ~

こんにちは!

今回は木下半田さんの人気シリーズである『ブンノシリーズ』の一作目である『サンブンノイチ』を読みました。

木下作品に通じる、物語の展開のスピード感と逆転劇、個性に富んだキャラクターが最初から最後まで一気に本を読ませます。

今回もネタバレを含む(注意!)感想を書きたいと思います。

 

あらすじ

最初はサンブンノイチの簡単なあらすじから。

主人公はシュウ(清原修造)。

川崎でキャバクラの雇われ店長をしているのですが、ある時競馬で久々の大勝をして喜んだのも束の間、店の売上金を紛失してしまいます。

オーナーの破魔翔(木下作品に度々登場します)に見つかったら殺されてしまう状況に陥ったシュウの元に、店で働く茉莉亜が銀行強盗の話を持ってきます。

店で働くボーイのコジ(小島一徳)と店の常連で破産寸前の健さん(金森健)に銀行強盗の話を持ち掛け、三人で実行することに。

ところが、強盗時にシュウの想定外の人質殺害で事態は一片。

金を持ってシュウたちが働くキャバクラのハニーバニーに身を隠します。

警察に終われる中で団結するどころか、強盗した金の取り分を巡って仲違いをする三人。

元々兄弟のように仲が良いシュウとコジが手を組んで健さんをはめようとしますが、更なるトラブルで店のボーイである尾形を健さんが目撃されたことに動揺して殺してしまい、自体は悪化。

今回の強盗には川崎の魔女である渋柿多見子が絡んでいる以上、なんとかピンチを切り抜けるしかありません。

しかし、そのトラブルを眺めていたのは破魔翔。

銀行強盗の話を持ち掛けた茉莉亜は、実は破魔翔に脅されていたのでした。

自身は舞台女優として活動したいと思っていた最中、破魔翔に理不尽な金銭を要求され、できなければAV女優になれと脅されます。

そんな茉莉亜はシュウに銀行強盗の話を持ち掛け、最終的には破魔翔も殺して金を独り占めにするつもりでいました。

ところが、三人の仲違いは思わぬ方向に進みます。

シュウが一人で金を持ち逃げるかと思いきや、健さんが生き残る自体になります。

店のブレーカーが切れて様子が分からなくなり、慌てた破魔翔と茉莉亜は健さんを追いかけます。

そこには渋柿多見子が待ち受けていました。

事前に銀行強盗の話を知っていた渋柿たは、破魔翔がオーナーのハニーバニーの店の権利を奪うべくシュウたちに協力していたのです。

そして、最後はシュウたちも陥れて銀行強盗の金も奪うつもりでいました。

ハニーバニーでは金を持って逃げようとしたシュウたち三人が今回の強盗の手助けをしていた若槻に裏切られ拘束されていました。

若槻と渋柿が繋がっていたことで銀行強盗が筒抜けになっていたわけです。

しかし、シュウは渋柿や若槻の事を見抜き事前に手を打っていました、ハニーバニーのビルに火を放ち間一髪のところで逃げることに成功。

シュウたちを陥れようとしていた茉莉亜は逆に陥れられることになり帰らぬ人に。

かくしてシュウたちは銀行強盗を成功させて、破魔翔と渋柿というモンスターたちから逃げることに成功しキッチリと強盗した金を三分の一ずつ分けることが出来ましたとさ。

 

最後に神様がほほ笑んだワケ

何をやっても裏面に出て負け犬同然の人生を歩んできたシュウたち。

今回の強盗も、破魔翔や渋柿多見子といった悪魔的な猛者の猛威から脱することが出来た最大の要因は、最後まで諦めなかったこと、それから正直さでした。

シュウは銀行強盗に入る前に、一緒に強盗をするコジと健さんに事の始まりと、現状、関わっている人物についてを話します。

その上で、報酬はキッチリ三分の一ずつにするとした上で、茉莉亜、破魔翔、渋柿多見子を出し抜くための計画を練り実行することになります。

バケモノたちを出し抜くためには、三人が団結する必要がありました。

その為には、何より大事なことは信頼です。

信頼を得るためにも正直にすべてを話、分け前はキッチリと分ける。

自分の事しか考えなかった破魔翔、渋柿多見子はデカい獲物を逃し、茉莉亜は悲運な最後と遂げます。

また、強盗のギリギリまで策を練り、出し抜くために出来ることをやり切ったことで、想定通りに事が進むことになりました。

何処かで手を抜いていたら、結末は違ったものになっていたことでしょう。

 

それにしても、木下半田さんの作品の魅力の一つは逆転につぐ逆転劇ですが、いずれにしても共通しているのは仲間への信頼なのかもしれません。

そして、相手がもう勝ちを確信して油断する最後の最後まで先を読み、身体がボロボロになっても諦めずに成し遂げることが大逆転を生んでいるように思いました。

一方で、破魔翔や渋柿多見子といったバケモノたちも実際には悪魔的なチカラを持っていながらも、その実は徹底的な情報集めや危機意識を持っていることが、その地位を確固たるものにしていました。

しかし、そんなバケモノでも相手を見くびった瞬間に窮鼠猫を噛むようなことになります。

見ている側としては、「あの破魔翔・渋柿多見子に一泡ふかせたぜ!」ってテンションが上がります。

そう思えるのも、破魔翔や渋柿多見子のキャラの描き方が上手いからだと思います。

 

キャラ立ちさせるテク

シュウが渋柿多見子が経営していたソープランドの跡地で脳みそを食べられそうになったり、何処で情報仕入れたのか分からないくらいの謎の情報網があります。

一方の破魔翔は茉莉亜を愛車に乗せて暴走ドライブをしたり、えげつないくらいの悪行や強さが描かれています。

このシーンが必要なの?と思いつつも、そうしたシーンがあることでキャラの濃さが深まっていることに気が付きます。

しかも同時に物語の筋にも関わりつつ、エンタメ性がある描写なのでスリリングな体験が出来るのもポイントですね。

特にシュウが渋柿多見子にソープランドで拷問されかけて、服従しそうになる下りは茉莉亜の魂胆に気が付き、後の逆転に繋がる不屈の闘志に火をつけるという点で重要なポイントになると思います。

それにしても、文字にするもの憚られるような渋柿多見子の相手の心を完膚なきまでに叩き折る手口。

実際にこんな悪魔がいたらと思うと恐ろしいですね。

だって、自分の脳みそを食べられたり、食べさせられそうになるなんてどう考えてもイヤですよね。

 

木下半田さんの男女の描き方

男女観という言葉が適当かは分かりませんが、なるほどなと思わせる一コマがありました。

それは、破魔翔が尾形を追いかけるべく愛車のポルシェの所に向かった所、渋柿多見子に待ち伏せされた場面。

男性には無い女性の強さについて渋柿多見子は”図太さ”について話します。

その話を聞いていた茉莉亜が、渋柿の言う図太さを理解できな破魔翔を横に同性ならではの共感を示す次の言葉です。

女は幼い頃から不安定な生き方に慣れている。生理にしたってそうだ。毎月、決まった日にくるわけではない。

新しい環境や出来事に対応できるよう、記憶を上書きしていく。

つまり、過去のことはすぐに忘れるのだ。

過去忘れられる女の図太さは、破魔翔が過去の経験から身の安全を守る為に常に注意を怠らないという在り方とは対極だと言えます。

それを渋柿多見子に見透かされて、女が怖いからキャバクラを経営していると言われてしまいます。

女性は過去の情報についての記憶は良いですが、次に進むべきと思ったことについては綺麗さっぱり忘れられる強さを持っているという木下半田さんの持論が見えます。

女性の強さというものについて考える時、その強さの一端には”忘れる力=図太さ”があるというのはなるほどなと思わされました。

 

面白いのが、女性の強さの一端を描きながらも茉莉亜についてはある意味で女性の魔性について描かれている点です。

女性を讃美するだけではなく、女性の持つ狡猾さを描いていると思うと、木下半田さんの過去に何かあったのかな?と思わずにはいられませんね。

 

一方の男性についての描き方については、シュウ、コジ、健さん、破魔翔がある意味で男の願望の現れであったり、健さんはだらしない男の一面を表しているように思います。

破魔翔=裏社会の象徴
シュウ=諦めない執念
コジ=真っ直ぐさ
健さん=だらしないけどやる男

男ってろくでもないけど、それぞれに魅力あるよね?っていう事が表現したいのかな?と思いました。

いずれのキャラにも共感できちゃいますから。

 

まとめ

木下半田さんの作品はどちらかと言うと、男子に人気がある作品だと思います。

それは、男子が描く妄想を具現化したような作品だから。

個人的に共感できる点が多いので、キャラに感情移入しやすく、後は物語のアップダウンに揺さぶられてまるでジェットコースターに乗っているような感覚を味わうことが出来ます。

読み終わってみればどことなく爽快感を感じられる点もジェットコースターに乗った感じと似ていると思います。

後もう一つ、今回登場する茉莉亜もそうですが、舞台女優として目線が投入されるのも面白味の一つだったりします。

舞台に出るような人は身近にはいませんが、勝手なイメージで舞台に出る俳優・女優の根性や必死さみたいなものがあると思ってます。

鬼気迫るような舞台で演じることへの執念みたいなものが物語の方向性に違った角度でバイアスをかけているような気がします。

そう思うと実際の舞台を見に行って見たいなぁと思いますね。

まとめと言いつつまとまりがありませんが、読書しながら映画や舞台を見ているような感じがする木下半太さんの『サンブンノイチ』おすすめです。

それから、『サンブンノニ』っていう金をゲットした三人のその後を描いた作品もあるので読んでみようと思います。